「中国での鉄鋼産業に関わる業務は、TMEICの前身時から担当していましたが、当時私達は中国ではまだ知名度が低く、新参者に近い立場でした。しかし、いわばアウェイの環境下で、ヨーロッパのメーカーと競合しながらも、日本国内で多くの実績を持つ私たちは、『日本ブランド=TMEIC』として提案を続け、確実に信頼と受注を重ねていきました」と、山崎は語る。特に、20~40トンもある鉄の塊(スラブ)を引き伸ばし、薄い鉄の板にする「ホットストリップミル=熱間圧延設備」の電気制御システムでは、高いシェアを獲得した。「すでに成熟していた日本市場と違って、中国は新しい製鉄所の建設ラッシュに沸いていましたので、中国各地を駆け回っていました。大型案件の入札時には数週間滞在する事もよくありました。国の驚異的な経済成長の下、『産業の基礎である鉄鋼を俺たちがどんどん作るぞ』という製鉄所の人達の意気込みがひしひしと感じられて、とても忙しかったけれど本当に毎日が充実していました」と当時を振り返る。また、ひとつのプロジェクトが大きく、長いものだと引き合いがあってから製鉄所の立ち上げまで3年以上かかる。「ずっとお客さまと向き合い続け、無事に生産を開始できた時は本当に嬉しいものです。ひとつの成功がひとつの自信になる。そんな手ごたえの連続でした」。
とはいえ、新設ラッシュが無限に続く事はない。ここ数年は新設される製鉄所も減少。さらに、2016年には需給バランス調整のため10億トン以上ある現在の年間粗鋼生産能力を、国が1~1.5億トン削減する方針を発表し、各所で製鉄所の操業停止ニュースが聞こえてくる。ちなみに、減産される1億トンは、日本の年間生産量に相当する。「以前とは営業環境が大きく変わりました。工場新設の話はほとんどなく、老朽化した製鉄所の設備リニューアルの相談。もしくは、より高品質な鉄の生産を可能にするための設備改造提案を求められるケースが多いです」と、現在プロジェクトチームにて受注活動を行う持丸は言う。
鉄の高品質化には、高性能な設備が不可欠。例えば、ハイクラスの自動車メーカーが求める「強く、しなやかで、薄い」鉄の生産を実現するためには、圧延された鉄板の「厚さ」「形状」「温度」などが客先の要求する数値に合致するように緻密にミル(鉄を圧延する際のローラー)の動きを制御する必要がある。「例えば、長さ10m、厚さ250mmの鉄の塊を、厚さ2.5mmに加工する場合、厚さが1/100に延ばされるため、長さは加工前の100倍、実に1kmの鉄板となります。この長大な鉄板に許される板厚の誤差はわずか±0.025mm。全長の95%以上をこの誤差の範囲内に収めないといけません。しかもこの非常に繊細な作業を、直径1m近いミルが行います。いわば巨人の指で折り鶴を折るような作業をTMEICの電気制御システムがコントロールするのです」長年、日本で高品質な製品づくりをサポートしてきた自負があるからこそ、どうすればクライアントのつくりたい製品ができるのかを、具体的に提案し競合との差別化を図っている。
実績と提案内容には「確かな自信がある」という持丸だが、競合の手ごわさを感じることもしばしば。「中国のローカル企業が低価格で勝負してきています。時には当社の半額ぐらい。普通に考えると、とても太刀打ちできません。でも、諦めるわけにはいきません。リニューアル範囲をできるだけコンパクトにして価格を抑えたり、プラスの提案を追加して同価格で提示をするなどして、少しでも価格差を埋められるよう努力することはもちろんですが、技術部門や現地法人のメンバーと打ち合わせを重ね、どうすればお客さまに技術力や品質で選んでいただけるかを模索します」。
例えば、かつて新設時に製品を納入した製鉄所の場合、リニューアル時に「またTMEICにお願いしたい」と積極的に声をかけてもらえることも多い。「当時導入した当社の製品・サービスの品質を実感していただけたことからくる安心感。そして、かつて同じ目標に向かって何百回と議論・調整を重ね、時には仕事を離れて食事や酒を共にし、その結果、ひとつのチームとしてプロジェクトを共に成功に導いた一体感があるからだと思います。プロジェクトが成功すれば、お客さまの社内での評価も上がり、時には役職も上がります。数年後に再会すると工場長になられていたこともありました。そんな時でも当時のことをよく覚えてくれていて『昔、神戸で一緒に酒を飲んだな』と声をかけていただいたり、『あのときは本当に助けられた』と褒めていただけることもあります」と持丸は笑顔を見せる。
変革期を迎えている中国の鉄鋼市場だが、先のことを正確に予想するのは難しい。それでも今なお、中国が重要な市場であることに変わりはない。「ピーク時のような製鉄所の建設ラッシュはもうないでしょう。でも、私たちには、これまでのお付き合いを通じて信頼関係を築いてきたお客さまがたくさんいます。これは私たちの大きな財産です。距離が離れていますので日本国内と違って、頻繁に訪問するのは難しいですが、TMEICの現地法人と連携しながら、これからも細やかなフォローを心がけたいと思います」と山崎は言う。持丸は、「中国営業をこれまで経験して感じるのは、中国では人間関係が非常に重視されるということです。会社はもちろんですが、個人もしっかり評価を受けている。諸先輩方が築いてきた信頼を、さらに私が引き継いで、発展させていけるよう、これからもチャンスがある限り中国を飛び回ります。そして、お客さまが何を必要としているのかを正確につかみ、技術力と提案力で期待に応え続けることが目標です」。