製紙工場でつくられる紙は、家庭紙と呼ばれるティッシュやトイレットペーパー、印刷用紙、新聞紙、段ボールの原紙となる板紙、レシートなどに使われる感熱紙など様々。設備は、紙の原料である木のチップや古紙を溶かしてドロドロのパルプにする「パルプ製造設備」と、パルプから紙を抄く「抄紙(しょうし)設備」から成る。TMEICはこれらの機械を動かすための電気設備を納めているが、特に重要な抄紙機に使われるモータやドライブ装置、その運転操作・監視をする制御システムに豊富な納入実績を持っている。製紙工場においては、どんな紙をつくるかによって機械構成が変わり、それに合わせてTMEICが納めるラインナップも変わってくる。「抄紙機は長いものだと200mを超えますので、100台以上のモータ、ドライブ装置を納めることもあります」と営業の峯尾。繊細な素材を薄く延ばし、乾燥させ、巻き取るという工程を時速100キロ近いスピードで流していくため、「非常に破れやすい素材をTMEICのモータ、そしてそれを制御するドライブ装置によって、常に安定した操業状態を保っています」と技術の吉岡は言う。
峯尾が入社3年目の頃、韓国のとある製紙工場に、ティッシュマシンを新設する案件を担当した。「モータやドライブ装置などの電気設備はTMEICが担当し、機械や据付け工事は韓国・中国の会社が担当する、3か国間プロジェクトでした」。プロジェクトはスケジュール通り進んでいたが、機械と、モータやドライブ装置をつないでテスト稼働したところ、速度を上げると振動が起きてしまい機械に損傷を与える可能性が出てきた。現地から「機械側は、TMEICが納めているモータに原因があるのではと言っている」との一報を受けた峯尾は、すぐさまモータを製造した長崎工場に連絡した。「現場の緊迫感は電話からもひしひしと伝わってきました。しかし、工場に事情を説明すると、『その振動は、モータが原因ではないはずです』と即答されてしまって。連絡を受けたその日中に、モータに原因がないことを証明する試験データとともに、現地で点検してもらうためのチェック項目を送りました」と峯尾。製造したモータはすべて工場で試験をして出荷しているため、「モータ側の問題というのは考えにくいですね。振動の原因として他に考えられるのは、機械側の問題、据付け方の問題、モータと機械をつなぐギアの問題、他にも色々あります。検証するため振動データや据付けの状態が確認できる写真を送ってもらうよう依頼しました」と吉岡。「振動問題を解決できなければ、設備は稼働させられません。操業開始の遅れはそのままお客さまの損害につながってしまいます。TMEIC側の問題ではないことを証明するのはもちろんですが、原因を特定しお客さまの早期操業につなげることが最重要です」と峯尾。はやる気持ちを抑えつつ、待つこと1週間。ようやく依頼したデータが到着した。峯尾はすぐに長崎工場に向かい、モータ品質管理の責任者とともにデータや写真を検証。すると、据付けの仕方が通常と違うことが分かった。「データが届いた翌日には、据付けの仕方に問題があることをお客さまに報告できました。実際に据付け方を変えると振動もなくなり、無事に稼働したときはほっとしましたね。入社して初めて経験した大きなトラブルで、解決までの道筋がまったく分からなかったのですが、とにかくお客さまが最優先。『すぐにモータ工場側に連絡し、実際に会って現地の情報を一緒に確認する』、これが早期解決につながると、初めて身を以て実感することができました」と峯尾は振り返る。
製紙工場も、市況の変化とともに変わっていく。紙媒体からデジタルへの移行や、ネット通販の成長により配送するためのダンボールの需要が高まっている背景があり、「現在、韓国で、新聞紙工場から段ボールの原紙となる板紙工場に設備を変更するというプロジェクトを担当しています。新聞紙と板紙では、厚さ、質感、重さ、生産スピードなど全く異なりますので大規模なリニューアルになります。最初に新しい機械の構成が決まり、その機械の操業に最良なモータ、ドライブ装置、制御システムを提案しました」と峯尾。この製紙工場は、「30年程前、TMEICの前身時代に、モータやドライブ装置を納めていました。今回のプロジェクトは競合案件でしたが、数年前から定期点検などの機会を活かしながらお客さまを訪問し、ニーズを把握できていたこと、そして何よりも30年間、ずっと安定的に使用できたというTMEIC製品への高い評価がベースにあったことが大きかったです。お客さまが実現したいことと、予算内でできることを近づけながら提案し受注することができました」と峯尾は振り返る。「やはり、既納品があるということは有利です。どのような機械や電気設備が実際に使用されているのかを把握しているのですから。例えば、お客さまがコストを抑えることを優先するのであれば、一部既存の設備を活かしたり、段階的にリニューアルする提案ができますし、反対にお客さまが予算を確保できていたり、長期的な投資効率を重視されている場合は、全ての電気設備を最新鋭のものに入れ替えるご提案ができます。お客さまの現状を詳しく把握できていることで、よりお客さまのニーズに合った提案をすることができるんです」と吉岡は言う。
つくる紙が変わっていくだけでなく、技術革新もある。約30年、「紙・パルプ」に従事した吉岡は、「私が入社した頃から十数年ほどかけて制御方法がアナログからデジタルに変わり、制御性能が飛躍的に高まりました。お客さまの人的負担も減り、今は中央監視室からモニターを監視し、異常がないかを確認すれば良い状態です。また、モータの駆動方式が直流から交流に変わったことも電気設備を提案する私たちとしては大きな変化でした。今後も大きな技術革新が起こり得ることを考えると、ワクワクしますね。ビッグデータ、人工知能・・・最新技術のニュースを見ては、紙・パルプの分野でどう活かせるかを話し合ったりしています。我々の仕事は、常に最新の技術を、システムに昇華していくというもの。これからもアンテナを張りながら、先取りしていきたいです」と吉岡。新設・既設問わず海外プロジェクト全体を見ているため、自分が若い頃に関わった製紙工場を十数年ぶりに再訪することもあると言う。「忘れていても現場に入ると、『あ、ここは』と記憶が蘇りますね。当時納めた製品などは完全にスクラップされてしまうことも多く、寂しい気持ちもありますが、感傷に浸っている暇はありません。既設を知っている強みを活かせるよう、チームのメンバーにアドバイスをしています。一つひとつの案件が、まさに継承のチャンスですね」と吉岡は言う。
営業として5年が過ぎた峯尾は、「営業マンとしてやるべきことを頭で考える前に、自然と身体が動くようになってきました。先ずはお客さまの信頼を得、ご注文につなげていくこと。TMEICを選んでいただくための判断材料を用意し、お客さまの要求にできるだけ応えるべくコスト、製品の生産スケジュール、現地調整員の派遣スケジュールなど様々な調整を行います。昔はお客さまの現場の判断だけで製品発注を決めていただくこともありましたが、今はお客さまの社内の手続・仕組みも複雑になり、経営判断に関わる経営陣、調達部門などさまざまな立場の方に対して関係づくりを含めた営業活動が必要です」。さらに、受注後も営業の仕事は終わらない。「必要な情報を適宜収集・判断しながら、関係者が効率的にプロジェクトを遂行できるようフォローし、最終的にお客さまに満足していただくことが重要です。そういった信頼の積み重ねが、また次のリニューアル案件の受注にも繋がっていくのだと思います」。
常に新しい時代に対応し、そしてベテランから若手へのノウハウの継承を進めることが、「これから先もずっと、お客さまと共に歩んで行くTMEICであり続けるために必要」と吉岡は先を見据える。