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Vol.10 「インド式」ダイエット大作戦 ~世界で戦えるモータをつくるために~ Play movie

TMEICはこれまで、日本国内の発電所、製鉄所、オイル&ガスなど基幹産業に関わるプラントに数多くの高性能モータを納入してきた。近年、社会インフラの発展がめざましい新興国へ市場がシフトしていくのと同時に、中国や韓国、南米などの新興メーカーが台頭し競争が激化。TMEICも海外市場でのシェアを拡大すべく、海外での販売・生産に注力してきたが、新興メーカーとの競争に勝ち抜くには、世界市場のニーズに見合った、競争力の高い「グローバルスタンダード機種」を開発する必要があった。

key person(キーパーソン)

  • 大形回転機第二部 設計第一課 課長 善家 孝夫
  • 大形回転機第二部 設計第一課 主任 原 俊昭
回転機システム事業部

モータだって“地産地消”

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「まず、昨今急激に高まっているインド市場のニーズを取り込むため、またインドを拠点とした周辺国への輸出を想定し、インドに製造拠点を設立することを決めました。そうすれば、現地で使うものを現地で生産するわけですから、お客さまのニーズを取り込み易くなります。また、インド工場には最新鋭の設備を投入するのですが、その際グローバル競争力に勝てる生産性を実現するための設計が求められます。例えば、肌感覚で0.01mmの調整を行うような“職人技“を必要とせず、それでいて高い信頼性を維持できる作業工程にする必要がありました」と設計責任者を務めた善家は言う。例えば、モータの鉄心をフレームに挿入する際、TMEIC長崎工場では特殊な設備を使う。この設備を使うことで、効率よくモータを組み立てられると同時に、剛性の高い構造となる。しかし、このような設備はインド工場にはない。「どうすればお客さまの要求する性能を満たす構造になるかを考え、工場にある一般的なクレーンを使って、鉄心をフレームに上からゆっくり収め、あとは溶接するだけで組み立てられるようにしました」。

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「火がついているからね」

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次にモータの軽量化に取り組んだ。「今回の『TM21-Gシリーズ』では、既存モータと比較して3割軽量化することが開発目標値でした。3割というのは、例えるならば体重70キロの人が47キロになるわけですから、今までチャレンジしたことのない厳しい目標でした」と善家。実現するためには、これまでの延長線ではなく、一度考え方をリセットして開発を進めなければならなかった。

スリム化するために、TMEICの誇る高い性能は維持しつつもお客さまが求める仕様にこだわり、顧客視点でのものづくりを心がけた。「グローバルスタンダードのラインを見極めて、ぜい肉をそぎ落としながら設計をする。モータのあらゆる特性を理解していなければ方向性を見出せない、非常に技術力が試されました」と善家は振り返る。行き詰まると、先輩の設計者にも意見を求めた。先輩が過去にチャレンジを試みて実現できなかったアプローチ方法などを参考にし、一つの方向性に集約していった。「モータひと筋40年というような大先輩とのディスカッションは、刺激的な時間でした」と善家。そうして開発のコンセプトを固めて詳細設計に入る頃、補修グループにいた原が開発グループに異動してきた。「補修グループではメンテナンスが必要になった古い機種を担当することが多かったので、一気に最先端への異動だなと思いました。それまでは、定められた規格に基づきコツコツと対処することが求められましたが、開発では新しく未来に向けて生み出す仕事ですので大きく違いました」と原は言う。「原には、『もう時間がない。でも、できませんでしたとは絶対に言えない。火がついているからね』と発破をかけました」と善家は言う。「開発スケジュールを考えると少しの無駄も許されないほど追い込まれていました。原には気の毒でしたが、厳しいプロジェクトだからこそモータエンジニアとしての成長のチャンスにして欲しいと願い、詳細検討を託しました」と想いを語る。

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日本の常識、世界の非常識

資材部 グローバル最適購買推進リーダー チーフスペシャリスト  弘茂 岳司

構造設計決定後、海外の部品加工のベンダー探しもスタートした。資材部と連携し、海外ベンダー100社以上と交渉した。資材部の弘茂は、「まず、モータ部品をつくった経験のあるベンダーを探すことが大変でした。現地ネットワークに強い人を採用したり、一部の会社についてはネットで調べて飛び込み訪問をしたりしました。特にインドの国営メーカーがある中部都市ボパールにはモータの部品メーカーが多くあり、幾度となく通いました」と振り返る。多いときは、月の半分以上インドに滞在することもあった。「インドに13泊して11回ホテルを替えたこともありました。チェックインした翌日には、国内便で次の都市に移動。本当にインド各地を飛行機で飛び周っていて、『あなたほどインドの国内線に乗っている人はいないよ』とインドのスタッフに言われました」と笑う。

ようやく候補の会社を絞り込めた段階で、試作を依頼。しかし、ここでも問題があった。「図面の違いです。TMEICが使用していた図面を渡すと、分かりにくいと言われてしまって。図面自体のつくり方がTMEICとインドで違うため起こった行き違いでした。そこで、TMEIC側で図面をつくり直したのですが、それでも求める精度の部品ができてこないこともあり、インド側と何度も確認し合いました。日本人が海外の人と仕事をする時にありがちなのですが、言葉の壁もあって、聞き直すのを躊躇してしまい、曖昧なまま話を先に進めてしまうと後で大変なことが起きます。文化、仕事のやり方も違う海外企業と一緒に目的を達成するためには、お互いを理解するためのコミュニケーションを繰り返し、細部まで詰めの作業が必要です。そうして約束したスケジュールなどを守ってもらえないときは、机をたたいて強く抗議したこともありました」と弘茂は言う。ようやく要望通りの試作品ができ上がったとき、弘茂はインド工場のスタッフ全員と握手をして達成感をかみしめた。

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足跡を残す仕事

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様々な難題を乗り越えて、ようやく社内レビューを迎えた。当初の目標である「重量3割減・大きさ1割減」を達成することができ、社内からの評判も良かった。「ホッとすると同時に、自分の手でグローバルスタンダード製品を生み出せたことが感慨深かったです。そして、『TM21-Gシリーズ』の開発を通じて得られた電気設計、冷却性能などの新しいノウハウを、国内市場用のハイスペック機に活かせたことも大きな収穫です。今回のプロジェクト・製品が、TMEICの海外市場シェア拡大に向けた一石になれば嬉しいです」と善家。

プロジェクトに途中参加した原は、「入社して最初の数年間は、ただただ決められたルールを守って、言われたことを確実に行うことを意識していましたが、今回、それだけではダメだと痛感しました。例えば設計基準で“決められているから”従うのではなく、“なぜそのような設計基準が決められているのか”を理解しておく。自分の頭でしっかり考えて業務に取り組むよう後輩たちに伝えていきたいです。そして、私自身もこれから30年間のTMEIC人生で、足跡を残す仕事がしたい。TMEICには、名前の残っている設計者が多くいます。偉大な先輩技術者に続き、後世に誇れる製品の開発に携わることが目標です」と未来を見据えている。産業用モータは、その120年以上の歴史の中で、もはや改良し尽くされた感があるようでいて、それでもまだ、改良の余地がある。「パーフェクトなモータをつくりたいんです。難しいからこそ、やりがいがある。約20年間、モータに携わってきた私にも成長余力がまだまだあります。原のような若手とともに、『まだ何かできるんじゃないか』という探究心を持ち、やるからには世界一を目指して開発を続けていきたいです」と善家は力を込める。

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Interview movie(インタビュー動画)

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