アリゾナなどの広大な砂漠に広がるメガソーラー。「北米の顧客ニーズは、砂漠に直接置ける大容量のパワコンであること。国内ニーズとはまったく違う。これは、『今までにないパワコン』への挑戦でした」と部長の飛田は振り返る。大容量であれば設置台数を減らせ、砂漠にそのまま置ければ建屋の建設費がかからない。顧客の徹底したコストカットが背景にはあった。しかし、大容量になると装置の発熱量が増えて冷却機能が重要になる。さらに屋内機と同じファンによる空冷式では、砂などが入って壊れやすい。もちろん-20℃~50℃の温度幅に耐えられる高い基本性能も必要だ。プロジェクトリーダーを務めた田中は「難題ばかりだなと思った」と当時を語る。
特に大きな課題だった冷却方式は、鉄道分野で採用しているヒートパイプ方式に決めた。「鉄道分野出身のメンバーの提案を聞いて、なるほどと。部品点数が少なく、メンテナンス性に優れている。他社の大容量パワコンでは採用されていない方式だったが、躊躇はなかった」と田中。「他社と似たような製品を作っても、おもしろくないし売れない。私たちは常にナンバー1製品の開発を目指しているんです」と飛田。
「北米出張をした時ですね。開発は順調に進んでいたんですが」と田中は振り返る。現地法人の担当者が「もっと大容量だったら、絶対に売れる!なんとか頑張れないか」と田中に迫った。さすがに即答できず、帰国してプロジェクトメンバーと検討。容量約1割アップを目指して設計変更を始めた。ところがさらに1割アップを求められ……。「さすがに無理なんじゃないか」という声も出始めた。それでも期待に応えようと前進するメンバーの心を一つにしたのは、「『強い気持ちでやるしかない』という、チーム最年長であり、誰よりも長くパワコンの開発に携わってきた技術責任者の言葉でした」。
ようやく試験機が完成すると、信頼性試験、砂塵試験を行う。新しい冷却方式を採用していることもあり、試験をクリアするまで2ヶ月ほどもかかった。苦しい時期もあったが、田中は「終わらない開発はない。強い気持ちで絶対に解決しよう」とみんなを励ました。北米で発売するために必要な規格も、自社で北米に巨大な試験場を構築し無事にクリア。いよいよ新型機発表の準備が整った。
2013年9月、田中は新型機のプレゼンのためシカゴにいた。太陽電池分野で米国最大の展示会「Solar Power International 2013」。実は、展示会前に資料で説明しても反応はイマイチだった。「ところが展示会でシンプルな内部構造を見せたら、『エクセレント!!』と。正直、ほっとしましたね」。その後、無事に初受注。「1台目がトラックに積まれて工場を出ていくときは感慨深くて。我が子を送り出すような、そんな感覚です」。
さらに2014年6月。ミュンヘンで開催された「Intersolar AWARD 2014」で世界21か国、200社の中から部門最優秀賞を受賞。この快挙を田中は、「ファイナリスト10社になったと聞いたときも驚きだったのに、まさか最優秀賞をとれるなんて誰も想像していなかった」。現地で受賞式に臨んでいたスタッフの中には涙を浮かべる者もいたという。
快進撃は続く。2015年3月、太陽光発電部門でフロスト&サリバン社「2014グローバル・カンパニー・オブ・ザ・イヤー・アワード」の最優秀賞を受賞。日本どころかアジアの企業で初の快挙だった。「サンディエゴでの受賞式は、忘れられない経験です。誇らしかったし、もっともっと良い製品を作り続けなくてはと思った」と飛田は振り返る。
TMEICは2014年、100kW超のメガソーラー案件で世界シェアナンバー1を達成。府中工場だけでなく、新たにインドでも生産を稼働し、世界市場に向けて生産を開始している。しかし、開発にゴールはない。さらなる大容量・高効率の次世代機「SOLAR WARE 2300」「SOLAR WARE 2500」を今期リリースする。
飛田は言う。「大学の研究室に入るとき、じゃんけんに勝って『電力変換(パワーエレクトロニクス)』の研究室に決まったんですよ。負けていたら、パワコンの開発に携わることはなかったんでしょうね(笑)。いろいろな巡り合わせがあって、今がある。世界的にニーズが高い再生可能エネルギー・太陽光に携われることは、大きな喜びです。ずっとグローバルナンバー1を継続したい。お客様をあっと言わせるような新製品の開発をみんなと目指します」。