大容量電力変換技術で、
カーボンニュートラル社会に変換!

カーボンニュートラルを
実現する
大容量自励式
電力変換装置

グリーン水素の生成をサポートする
自励式整流装置

交流から安定した直流に変換する
「自励式整流装置」

一般的に「AC-DCコンバータ」や単に「コンバータ」などと呼ばれることが多い整流器。
身近な物としてはスマホやモバイルPCの充電器(ACアダプタ)があり、多くの家電製品には直流駆動の電子部品が多数実装されているため、
整流器が内蔵されています。

ここでは、グリーン水素を大量生産するために開発が進む、大容量自励式整流装置の動作原理について説明します。
数万A(アンペア)、数千Aの直流電流を流す自励式整流装置には、大きな電力を扱うことができる
IGBT(絶縁ゲート型バイポーラートランジスター)という半導体デバイスが数多く搭載されています。

その自励式整流装置の交流直流変換機能と電力の制御について説明します。

水素製造用自励式整流装置の概要

水素製造のための電気分解には直流電流が必要です。特に、グリーン水素を大量生産(電気分解)するためには、数万Aの大電流が必要で、整流装置には多数の半導体(IGBT)を並列接続するための主回路開発技術、また、さまざまな性能・機能を実現するため制御開発技術など、高度なパワーエレクトロニクス技術が求められます。

自励式水素整流装置

自励式整流装置の動作原理

一般に送電線や配電線の電圧は高いため、電解槽や自励式整流装置に見合う交流電圧に変圧する必要があります。
そのため、交流電圧を変圧器で調整し、自励式整流装置に接続します。
自励式整流装置はPWM制御というパワーエレクトロニクス技術で、電源側と同じ交流電圧を発生させることで、
電源から交流電流が流れるように制御します。これにより、電源側からは、変圧器に抵抗器が接続しているのと同じように見えるため、
自励式整流装置は高調波や無効電力を発生させずに交流電流を制御できるようになります。
そして、装置内を流れる交流電流をIGBTによる高速のオン/オフ制御で、電流の流れるルートを切り替え、交流電流を直流電流に変換します。

自励式整流装置の動作原理

PWMについてもっと知る

PWMについてもっと知る

PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)の原理を単相回路(下図)を例に説明します。

A相に2つのIGBTがあり、上側のIGBTがオン状態となると、
A相には直流の+電圧が現れ、下側のIGBTがオンになると-電圧が現れます。B相についても同様です。
このように、IGBTのオン/オフを制御することで、交流回路に+、-の電圧を交互に出力することができます。

PWMの原理

PWM制御は、キャリア波に実際に出力したい交流電圧(参照波)重ね、双方が交わるタイミングで、IGBTをオン/オフします。
IGBTがオン/オフすると、上の図で説明したように+、-の電圧を交互に出力されます。
このようにして得た電圧波形には、参照波と相似な交流電圧成分が含まれているので、簡単なフィルタリングを行うことで、
必要な交流電圧を得ることができます。

PWMの原理
自励式整流装置による
交流から直流への変換についてもっと知る

自励式整流装置による交流から直流への変換についてもっと知る

水素分解のためには直流電流が必要なため、自励式整流装置は交流電流から直流電流への変換を行います。
その動作原理を、下図とともに説明します。

まず、三相交流のU相に着目します。
U相の交流電流が左から右に流れたタイミングでP側のIGBTをオンにすると、U相の交流電流の向きは直流回路に流れる電流の向きと同じなので、
この瞬間はU相の電流が直流回路に流れ込みます。
一方、直流回路からは右から左へ直流電流が流れ、この電流はV相やW相の電流として電源の交流系統に戻ります。

自励式整流装置による交流から直流への変換

続いて、U相の交流電流が右から左へ流れている状態を下図に示します。
このタイミングでは、N側に接続したIGBTをオンにすると、U相の交流電流は、直流回路から戻ってくる電流と同向きとなるので、
直流電流はU相を通って電源の交流系統に戻ります。また、この際、直流回路に流れ込む直流電流は、V相やW相から供給されます。

実際の自励式整流装置では、このような動作を数kHz(1秒間に数千回)という高速で行い、
水素の大量製造を行う電解層に必要な直流電流に見合う交流電流が流れるように制御します。

自励式整流装置による交流から直流への変換

自励式整流装置による電力の制御

自励式整流装置は、電源側の交流電圧を基準にして、
装置内の交流電圧を変化させることで、電力を制御できます。

自励式整流装置の出力電圧を変化させる方法には、1)電圧の遅れ(電圧ゼロのタイミング)を変える,2)電圧の大きさを変える、があります。
電圧の遅れを変えると直流電力、電圧の大きさを変えると無効電力がそれぞれ制御できます。また、この2つの制御は独立しているため、
自励式整流装置は有効電力と無効電力を同時に制御することが可能です。有効電力は直流電力として電気分解設備に供給されます。また、無効電力は、交流系統電圧の制御に使うことができます。つまり、自励式整流装置は、これら2つの機能を同時に実現します。

自励式整流装置による
直流電力(有効電力)の制御イメージ

電源側の交流電圧に対して、自励式整流装置の電圧を少し遅らせると直流電力(有効電力)が得られます。
この遅れが小さいと電力は小さく、遅れが大きいと電力は大きくなります。

自励式整流装置による直流電力(有効電力)の制御イメージ

自励式整流装置による
無効電力の制御イメージ

電源側の交流電圧に対して、自励式整流装置の電圧出力を変化させることで、無効電力を調整します。
自励式整流装置の電圧出力を大きくすると、コンデンサ※2があるのと同等の無効電力(容量性無効電力)が出力され、交流電圧を高くする方向に作用します。

自励式整流装置による無効電力の制御イメージ

一方、自励式整流装置の電圧出力を小さくするとインダクタ※3を設置した場合と同等の無効電力(誘導性無効電力)が出力され、交流電圧を低くする方向に作用します。

自励式整流装置による無効電力の制御イメージ

水素製造用整流装置への要求事項

グリーン水素を製造(電解)するプラントは、再生可能エネルギーを主電源とし、
大量に製造するためには電解槽に大電流を供給する整流装置が必要です。また、電解槽にストレスを与える直流リップルの低減も求められています。
このような大容量、低リップルのニーズに対応するのが水素製造用の自励式整流装置です。

従来の整流器は、パワー半導体(スイッチング素子)としてサイリスタ※4を使用した他励式でした。
水素製造用整流装置は、サイリスタに代わり制御性に優れたIGBT※5を採用した自励式とし、
そこに新しいパワーエレクトロニクス技術を適用した最先端の整流装置です。

将来の電力システムは、再生可能エネルギーが主力になることが期待されています。しかし、再生可能エネルギーの発電電力は、
従来の回転型発電機と異なり、直流で発電されます。その電力を交流に変換するインバータは、電力系統からの高調波や電圧変動といった外乱の影響を受けやすくなります。
そのような電源環境で従来のサイリスタ整流器を使った場合、高調波や電圧変動といった外乱が生じるため、高調波対策や電圧変動対策などが必要となります。
一方、自励式整流装置は、電力システムから有効電力だけを取り込み、高周波や不要な無効電力を流し出さず、
将来の電力システムに対応したグリーン水素製造プラントの安定稼働に貢献します。また、サイリスタに比べ、高速に細かな制御が可能なため、
脈動(リップル)が小さい直流電力を供給し、電解槽に与えるストレスを低減します。

産業設備の電化推進をサポートする
SVCS(静止型無効電力補償装置)

カーボンニュートラルの実現のためのソリューションの一つとして、産業の加熱プロセスの電化が進められています。
大規模な電熱設備の代表として、アーク炉があります。アーク炉は、アーク放電※6により非常に高い温度で加熱ができるので、
金属のリサイクルのための溶融設備として用いられます。
アーク炉は、電極と溶融される金属スクラップとの間でのアーク放電によって高い熱エネルギーを得ますが、
放電現象自体、どのような電流が流れるか予測が難しい現象です。それに加え、金属スクラップの溶融による形状変化や、
積まれたスクラップの崩落で、電極と金属スクラップの間の距離が時々刻々変わり、放電の状況が激しく変動します。
そのため、電力システムから流れ込む電流が高速に大きく変動し、電源品質が低下するリスクが生じます。

送電線や配電線には、電線に流れる電流が急激に変化すると、電圧が大きく変動する性質があります。
(物理学や電気工学では、その性質をインダクタンスと呼んでいます。)
そのため、アーク炉が稼働すると、設備近くの送電線や配電線の電圧が変動し、
近隣にある電気設備や照明に影響する可能性があるため、対策が求められることがあります。

SVCSは、アーク炉から生じる急激な電流変動を打ち消し、送電線や配電線の電圧変動を抑制する装置で、
特に、アーク炉などの産業設備の電化推進をサポートします。

自励式SVCSの動作説明

SVCSは、PWM制御を適用した自励式変換装置で構成されます。
一般には、PWM制御は、高調波成分が少なく、きれいな交流電圧・交流電流を出力する変換装置に使われます。
しかし、SVCSの場合は、アーク炉からの変動電流がそのまま、交流系統に流れ出ないように、逆に変動する電流を流すよう制御します。
下図に示すように、アーク炉に流れる変動電流(オレンジ)と交流電源に流したいきれいな電流(青)との差分の電流(緑)を出力するイメージです。

自励式SVCSの動作説明

自励式SVCSの実際の動作状況

自励式SVCSの実際の動作状況を説明します。
橙色で示した電流がアーク炉に流れる電流です。
電流波形の上に重なる赤い包絡線は、アーク炉電流により生じる無効電力を示しています。無効電力の変動は交流電圧の変動として現れます。
緑色で示した電流は自励式SVCSの電流です。アーク炉の電流が大きい時は小さい電流を流し、
アーク炉の電流が小さい時は大きい電流を流す様子を示しています。

したがって、アーク炉の電流とSVCSの電流が足し合わさると、電流の変動が小さくなり、青色で示される電流となり、
この電流が電源の交流系統に流れる電流になります。交流系統に流れる電流の包絡線(電源に流れる無効電力)の動きが小さくなっており、
電圧変動も抑制されています。

自励式SVCSの実際の動作状況

SVCSのPWM制御

SVCSはPWM変換器の技術を応用していますが、一般のPWM変換器とは異なる制御をします。

まずは、SVCSが出力したい電流を作るため、どのような電圧を出力すればよいか高速に制御して参照波を作ります。
アーク炉電流は予測がつかないランダムな変動電流なので、瞬時、瞬時に電流変動成分を抽出し、
ほとんど遅れなく変動を打ち消す必要があるため、高速で高度な制御技術が要求されます。

実際の装置は、変換器を多重接続した構成で、出力容量を大容量化するとともに、
PWM制御周波数を等価的に高くして、即応性を高めています。
一つ一つの半導体デバイスのスイッチング周波数は適度に調整され、変換器の効率を向上させています。

SVCSのPWM制御
  • ※2 コンデンサ:電気エネルギーを電荷として蓄える電気部品で、電池のような働きをする。
  • ※3 インダクタ:電気エネルギーを磁場として蓄える電気部品で、コイルとも言う。
  • ※4 サイリスタ:オンするタイミングだけを制御できるパワー半導体で、交流電圧の一周期に1回しか制御できない。
  • ※5 IGBT:高速(数kHz)で、オン/オフの双方の制御が可能なパワー半導体。
  • ※6 アーク放電とは、気体の放電現象の一種です。2つの離れた電極に電圧を印加すると、空気の絶縁破壊が発生します。2つの電極間に電流が流れ,強い光と高熱を発生します。