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産業・エネルギーシステム第一事業部
特機システム営業部
平松 尚紘

産業・エネルギーシステム第一事業部
特機システム技術部
高木 俊典
船舶の電化
2050年のカーボンニュートラル実現を目指して、CO2排出量を減らす取り組みは陸だけでなく海でも進んでいる。日本は、国内における船舶貨物輸送によって排出されるCO2を、2040年度までに約39%※1減らす目標を掲げる。これを受けて海運業界では、環境負荷がより少ない船舶の普及に向けて、水素やアンモニアを燃料に使う船など、様々な次世代船舶の開発や実証が行われている。
その中で注目されている一つが「電気で進む船」だ。従来の船舶は「重油」を燃やして「エンジン」を動かし、スクリュープロペラを回すディーゼル推進が主流。これに対して電気推進の船舶は、「電力」で「モータ」を動かしてスクリュープロペラを回す。電力は船に積んだ発電機や蓄電池から供給される仕組みだ。ディーゼル推進よりも温室効果ガスの排出を大幅に減らせるため、次世代の推進方式の一つとして期待されている。
電気推進には環境面以外にもメリットがある。モータは低い回転数でも強い力(トルク)を出せるため、低速でも安定して発進・加速できる。また振動や騒音が少ないので、機関士など乗組員の働きやすさや船内の快適さも向上する。このため客船ではすでに電気推進が多く採用されている。
TMEICは前身時代を含めて50年以上前から、船舶向けの電気推進システムを手がけてきた。特に、観測船や研究船、測量船などの専門的な船で数多くの納入実績を誇る。強みとなっているのは、システムの中心となるモータと、その回転数を制御するドライブ装置※2の両方を自社で幅広くそろえていることだ。これにより、船舶の大きさや用途などに合わせて最適なシステムを自社で構築できる。カーボンニュートラルに向けた需要が高まる中で、TMEICの技術が活躍する場はさらに広がっている。
- ※12013年度比。モーダルシフトを考慮した場合は36%。
出典:内航海運の2040年度温室効果ガス削減目標/国土交通省 資料
https://www.mlit.go.jp/maritime/content/001867837.pdf - ※2ドライブ装置:電力変換システム(インバータ)。直流、交流や周波数を変換する装置。
「日本が世界に誇る船」の動力
TMEICのドライブ装置が使われている研究船の一つが、海底広域研究船「かいめい」。音波を用いて海底の地形やさらにその地下の構造を調査するため、振動や騒音の少ない電気推進が適している。また、観測や調査で低速航行するときにエネルギー効率が良いことも利点だ。
2026年に竣工予定の北極域研究船「みらいⅡ」にもTMEICの電気推進装置が採用されている。日本の研究船で初めて、砕氷能力を備えていることが特徴だ※3。厚い氷を砕くときは、一度後ろに下がってから最大の力で前進し、氷に乗り上げて船の重さで氷を割る。この前進と後退の動きを繰り返すためには、強い力と細かな制御が求められ、電気推進が力を発揮するのだ。
2026年2月、「南鳥島沖の海底からレアアースを含む泥の試験採掘に成功した」というニュースが話題になった。このミッションを担った地球深部探査船「ちきゅう」を支えているのも、TMEICの電気推進装置だ。「ちきゅう」の掘削能力は世界最高レベル※4を誇り、波高10メートル、風速30メートルの荒れた海でも半径1〜2メートルの範囲で位置を保ちながら、深海の底からさらに7000メートルもの地中深くまで掘削できる。これを可能にしているのが、船の前後に計6基設置された「アジマススラスタ」と呼ばれる全方向に向きを変えられるスクリュープロペラだ。ディーゼル推進では、エンジンとプロペラが1本の軸でつながっているため、プロペラが増えれば同じ数だけエンジンも必要になる。一方、電気推進では、プロペラごとにモータを取り付ければよく、電力を供給する発電機や蓄電池は1カ所ですむ。さらに、ドライブ装置でモータごとの回転数を細かく制御できるため、6基のアジマススラスタを個別に正確にコントロールできる。世界初となった深海でのレアアース泥の試掘成功。その背景にはTMEICの電気推進の技術があった。
- ※3出典:北極域研究船プロジェクト/国立研究開発法人海洋研究開発機構ホームページ
https://www.jamstec.go.jp/parv/j/ - ※4出典:地球深部探査船 ちきゅう/国立研究開発法人海洋研究開発機構ホームページ
https://www.jamstec.go.jp/chikyu/j/about/spec.html
小さな力持ちから、世界最大クラスまで
電気推進システムは今、一般商船にも広がりつつある。蓄電池と発電機を組み合わせれば長距離航行にも対応でき、低速でも強いトルクを出せる特性は商船でも役立つ。中でもTMEICの強みは、モータを制御するドライブ装置の変換効率が高いことだ。発電機で作られる電力は交流だが、蓄電池に貯めることができる電力は直流。さらに、モータを回すときに必要な電力は交流のため、船内では交流⇒直流⇒交流と電力が何度も変換され、その際にどうしても電力の一部が熱となって逃げてしまう。TMEICの高効率ドライブ装置なら、この損失を最小限に抑えられ、省エネが実現できる。この強みが発揮された事例の一つが、日本郵船の電化タグボートへの採用だ※5。
タグボートとは、港で大型船を押し引きして入出港を助ける小型船のこと。大型船の周りを細やかに動く必要があり、かつ大型船を動かすには大きな力も必要となる。プロペラの回転数を精密に調整でき、低速でも高いトルクを出せる電気推進との相性がよい。電化タグボートのプロジェクトでシステムの設計などを担う高木は「船の上は陸と違って、波による傾斜や揺れが常にあり、それらも考慮して機器の選定や構造の検討を入念に進めています。求められる規格も陸上とは異なるため、その基準に的確に応えられるように、関連する機器メーカーとの連携に力を入れています」と説明する。
TMEICは今回、強みであるドライブ装置をタグボート向けに小型化するとともに、高効率モータを新たに開発した。一般的な高効率モータは、レアアースを原材料とする永久磁石が使われるが、TMEICは独自技術により永久磁石を使わずに高効率・高トルクを実現。さらに、蓄電池と発電機を最適に組み合わせるエネルギーマネジメントシステムにより、省エネで効率的な運航が可能になった。
TMEICの電気推進システムが活躍するのは、タグボートのような短距離航行の船にとどまらない。2026年4月には、世界最大級の液化水素運搬船への採用が決まった※6。このプロジェクトでTMEICは、モータやドライブ装置などを提供するだけでなく、システムインテグレータとして電気推進システム全体のエンジニアリングを担う。営業担当の平松は「この実績と知見は、TMEICが今後、より多くの一般商船の電動化を支え、カーボンニュートラル実現に貢献していく上で大きな弾みになります」と意義を語る。
「電気推進船といえばTMEIC」を目指して
高木と平松は、技術職と営業職と立場は異なるが、共通して海運への強い思いがある。高木は大学で海洋工学を学び、同期の多くが航海士や機関士になった。「船に乗る仲間を技術で支えたい」と、卒業後は複数のメーカーで経験を積み、現在まで一貫して船舶機器に携わり続けている。平松は、船乗りだった叔父の影響で船に興味を持ち、海運会社の営業職を経て、新しい挑戦に魅力を感じてTMEICに入社した。「船で働く人の環境をより良くしたい」という思いが原動力だ。
TMEICが一般商船向け電気推進システムの分野に参入して約4年。平松は製品がまだ開発段階だった頃から地道に営業活動を重ね、顧客のニーズを設計側に伝える橋渡し役を務めてきた。その努力が実を結びつつある今、「これからもニーズを的確にとらえてお客さまの信頼を積み重ね、『船舶の電動化といえばTMEIC』と言われる存在を目指したい」と決意を新たにする。高木は「推進システムだけでなく、船上クレーンなど船の設備全体の電動化にもTMEICの技術で貢献できると考えているので、適用の範囲をさらに拡大していきたい」と今後の展望を語る。
日本の輸出入の99.5%※7は海運が担っている。エネルギー資源や食料を運ぶ基幹産業であり、社会を支える重要なインフラだ。その海運産業のカーボンニュートラル実現を後押しするために、陸上で培った技術を海の上へ、そしてより多くの船へ。TMEICは広大な海へと挑戦の舞台を広げている。
- ※7重量ベース。出典:日本の海運 SHIPPING NOW 2025-2026/公益財団法人日本海事広報協会
https://www.kaijipr.or.jp/assets/pdf/shipping_now/data2025.pdf#page=8
