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ユーティリティ×省エネ

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産業・エネルギーシステム第一事業部
産業システムソリューション技術部

中村 哲也

産業・エネルギーシステム第一事業部 産業システムソリューション技術部

省エネのカギは“冷やす&温める”

製造ライン

「2050年カーボンニュートラル達成」を目指す日本は、2013年度から2040年度までに温室効果ガスを「73%」削減する目標を掲げている※1。2023年度までに削減できたのは、約27%※2。残り十数年で、さらに約46%減らさなければならない。

温室効果ガスの排出量が多いのが、製造業だ。その過半数を占める鉄鋼・化学といった素材産業はもちろんのこと、それ以外の製造業でも排出量の大幅削減が急がれる。そこで重要になるのが、再生可能エネルギーの積極的な導入に加えて、使用するエネルギーの量そのものを減らす「省エネルギー(省エネ)」の取り組みだ。国も省エネに関する法律を定め、工場でのより効率的なエネルギーの利用を促進。飲料業界でも省エネに向けた取り組みが加速している。

飲料工場で使われるエネルギーは、ものを「温める・冷やす」用途が多くを占める。中でも、製品をつくるときの冷却工程で多くの電力が必要となるため、いかに効率良く冷やすかが工場の省エネのカギとなるのだ。しかし、現場には課題も多い。個別の機器を、より省エネのものに置き換える対応まではできても、さらに踏み込んだ”工場全体”の省エネとなると、「人手が足りない」「ベテラン社員が引退し、工場設立時の状況が分からない」などの理由で、現状の改善に苦労している工場もある。

そうした工場の目に見えない課題を解決するのが、TMEICの「エネルギー最適化支援サービス」だ。多岐にわたる産業分野で積み重ねた省エネのノウハウを発揮し、TMEICは製造業のカーボンニュートラル推進を後押ししている。

工場の血液を回す

総合監視室

TMEICが工場・プラント向けに提供する省エネソリューションは、製造工程の上流から下流までをカバーする幅広いラインアップが特色だ。高効率なモータやドライブ装置※3、発電・蓄電システム、エネルギー管理システムといった工場の根幹を支える装置やシステムに加えて、それに付帯するユーティリティ設備も含めた工場全体の省エネを支えるノウハウを蓄積してきた。

ユーティリティ設備とは、生産設備の稼働に欠かせない電力、水、空気、熱などの各種エネルギーを供給する設備のことで、人間でいえば血液にあたる重要な役割をもつ。それらの省エネを担うのがTMEICの「エネルギー最適化支援サービス」だ。現状分析から対策の提案、導入後の効果検証までをワンストップで実施する。「中でも現状分析を重要視しています」と、エンジニアチームのリーダーを務める中村は話す。工場を実際に訪問し、設備ごとのエネルギー使用状況の詳細データを元に分析することで、工場ごとに異なる課題を突きとめ、最適な省エネや効率化のプランをオーダーメイドで組み立てるのだ。

「工場の省エネ」と一口に言っても、工場によって製造するものも違えば、生産設備やユーティリティ設備もそれぞれ違う。TMEICは「エネルギー最適化支援サービス」を通してこれまでに、電子部品、電気機器、食品など、業種も規模も様々な工場の省エネに携わり、知見と専門性を磨いてきた。

そんな中、沖縄県に拠点を構えるオリオンビールから相談が寄せられた。名護工場でビールのもととなる麦汁を冷却するための冷凍機が老朽化し、更新を考えているという内容だ。これに対しTMEICは、冷凍機を単純に更新するだけでなく、冷却工程全体の見直しを含めたプランを提案。その結果、想定を超える大きな省エネの実現につながった。

  • ※3ドライブ装置:電力変換システム(インバータ)。直流、交流や周波数を変換する装置

大きな"7%"

一般冷凍機(水冷式)

ビールの製造工程では、発酵の前に、煮沸した麦汁を約5℃まで冷やす必要がある。名護工場では、冷凍機で冷やした水を使い、熱交換器を通して麦汁の温度を下げていた。具体的にはまず、一般冷凍機(空冷式)2台で作った冷水を使い、煮沸直後の麦汁の熱を大まかに取り除き(一次冷却)、その後、ブライン冷凍機と呼ばれる、より強力な冷凍機で冷やした低温の水を使って、さらに温度を下げる(二次冷却)という流れだ。今回オリオンビールから依頼されたのは、この一般冷凍機2台と、ブライン冷凍機のうち2台の更新だった。

この設備更新を検討する中で、中村が着目したのが、冷やすために使う水の温度だ。実は、どのくらい熱いものを、どこまで冷やすかによって、最も効率よく冷やせる水の温度は変わる。必要以上に冷たい水を使うと、その分、電力を多く消費してしまう。ブライン冷凍機は、マイナスの温度まで冷やせる高性能な設備で、名護工場全体の冷却を支える重要な役割を担っている。しかし、麦汁を冷やす用途としては、性能が少し過剰な状態だった。中村は「ここを見直せば省エネにつながる」と考えた。

そこで提案したのが、ブライン冷凍機をメインに使わない、新しい麦汁の冷却方法だ。まず、一次冷却の熱交換器を、より効率のよいものに更新。これにより、冷凍機で冷やした水を使わなくても、常温の水だけで十分に麦汁の熱を取り除けるようになった。その結果、一次冷却のためだけに使っていた一般冷凍機は不要になった。次に、二次冷却の工程では、古くなっていたブライン冷凍機2台を、消費電力がより小さい一般冷凍機(水冷式)2台に更新。この冷凍機を中心に麦汁を冷やし、最後にどうしても必要な部分だけをブライン冷凍機で補う仕組みに変更した。この見直しによって、一次冷却で使っていた空冷式の冷凍機2台を廃止できただけでなく、二次冷却でもブライン冷凍機の台数を従来より2台減らしても、問題なく麦汁を冷やすことが可能になった。さらに、残ったブライン冷凍機の使用率も減るため、工場全体で使用する電力の大幅な削減が見込まれた。つまり今回の提案では、「冷却の考え方」と「機器の使い方」の両方を見直すことにより省エネにつなげたのだ。

更新前 更新後

この提案が採用されて、2024年3月に更新工事が完了。更新後の工場全体の年間電力使用量は、前年度より約7%削減された※4。オリオンビール名護工場長は「想定していた『約4%の電力削減』をはるかに上回る結果が出て、最初は計算を間違ったのかと目を疑ったほどでした。それくらい7%という数字は大きく、省エネの効果は期待以上でした」と話す。オリオングループでは、2019年から2030年にかけて温室効果ガス排出量を50%削減する目標を掲げており、唯一の製造拠点である名護工場でも、使用電力の半分以上を再エネ由来に切り替えるなどの取り組みを行ってきた。「再エネの比率を高めるとどうしてもコスト増につながるため、並行して省エネを進めることも重要な課題でした。そこで、製造ラインをなるべく効率的に稼働させる努力をして、より少ないエネルギーで無駄なく作る工夫を重ねてきました」と名護工場長は振り返る。今回達成した約7%という大幅な電力削減は、温室効果ガス排出量に換算すると約8%削減に相当するという。中村の踏み込んだ提案が、名護工場はもちろんのこと、オリオングループ全体のカーボンニュートラルの取り組みを大きく前進させる後押しとなった。

「ユーティリティ×省エネ」を
追求するスペシャリスト

中村はTMEICの前身企業時代から30年以上、ユーティリティ技術一筋で歩んできた。まさにユーティリティのスペシャリストだ。若手のときは自社半導体工場の新設や改修を担当し、その経験が今にいきているという。「製造業の中でも半導体工場は群を抜いて緻密なユーティリティ管理が求められ、特にクリーンルームの清浄度の維持管理が重要です。半導体製造の前工程にあたる、ウエハーと呼ばれる基板の製造工程では、クリーンルームの温度・湿度の管理はもちろん、空気中に浮遊する微粒子やケミカル成分を基準値以下に抑えることも必要です。当時エンジニアとして研鑽中の20代で、その厳しい管理に向き合い、応え続けた経験は、その後の土台になりました」と振り返る。

中村が入社した1990年代半ばには、すでに社内では省エネの重要性が共有され、ランニングコストが抑えられる省エネ設備の導入に積極的だった。その環境や風土も、省エネの幅広い知見を蓄えることに役立ったという。これまでの経験をいかして現在は、お客さまの工場やプラントの省エネ化に尽力する。「工場ごとに課題が異なることや、採算性とカーボンニュートラルをどう両立するかに悩むお客さまが多いことを実感します。そうしたお客さまに向けて、自らの経験や知識をいかして課題解決に貢献できることが大きなやりがいです。チームリーダーを務める今、蓄積してきた知識・経験をメンバーにも還元し、チームとしての力を高めることにも努めています」

そう語る中村が目指すのは、「エネルギー最適化支援サービス」をより多くの人に知ってもらい、これからも現場に赴きお客さまと一緒に工場の省エネを実現していくことだ。TMEICは産業用機器を製造する重電メーカーとしての印象が強く、こうした目に見えないノウハウを基盤とするソリューションやサービスは、業界内でもまだ広く知られていない状況だと中村は語る。今後はTMEICのソリューションを積極的にアピールしていくこともチームにとって重要なミッションだ。「ユーティリティ×省エネ」を追求するスペシャリストの誇りを胸に、チームの挑戦は続く。

【取材協力】オリオンビール名護工場
https://www.orionbeer.co.jp