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産業・エネルギーシステム
第一事業部
産業第一営業部
五十嵐 一雄

産業・エネルギーシステム
第一事業部
受変電技術部
相原 雄也
水素の実用化へ。
カギを握るのは「電力変換」
クリーンな次世代エネルギーとして注目される「水素」。水素はエネルギーとして利用するとき、二酸化炭素(CO2)を排出しないため環境に優しい。また、発電や自動車の燃料としてだけでなく、製鉄や化学工業にも活用できるなど、生活から産業分野まで幅広いシーンでの水素の利活用が期待されている。
水素を作るにはいくつかの方法がある。そのひとつが、水(H2O)に電流を流して、水素(H2)と酸素(O2)に電気分解する「水電解」だ。この水電解に必要な電気は、直流。一方で、送電線から送られてくる電気は交流で、性質が異なる。そのため水電解を行うには、交流を直流に一度変換しなければならない。水素を大量に作り出すためには、大きな電流を変換する必要があるが、ここで問題となるのが、変換するときに発生する電気のノイズ※。このノイズが大きいと、電力を供給してくれる送電網や、水素を作るプラント内の水電解を行う装置に負荷がかかり、安定稼働を妨げてしまうことも。変換時のノイズをいかに抑えられるかが重要となるのだ。
※ここで言うノイズとは、電気を交流から直流に変換するときに生じる「高調波」と「脈流(直流電流リップル)」のこと。高調波は系統(送電線)に接続された他の電気機器に悪影響を与え、直流電流リップルは電解槽に悪影響を与える原因になる。

いかに「ノイズ」を抑えるか?
高砂水素パークに納入された、
TMEICの水素製造用自励式整流器
出典:TMEICプレスリリース
交流から直流へと電気を変換する装置を「整流器」という。これまでの整流器では、ノイズを抑制するために整流器とは別に専用の対策装置を設置する必要があり、各プラントが求める仕様にあわせて、その都度専門家による設計・運用が行われていた。これに対し、TMEICが開発した水素製造用整流器では、ノイズ抑制の対策装置が不要に。個別の専門的な対策をすることなく、スムーズな導入が可能になった。加えて、交流から直流への変換時にどうしても避けられない電力のロスを、低く抑えることにも成功。きわめて高い変換効率も特色だ。
「水素製造用に最適化されたこの整流器には、長年電気と向き合ってきたTMEICの高度なパワーエレクトロニクスの技術と知見が結集されています」と、国内営業を担う五十嵐は説明する。「従来に比べて導入や扱いが容易であることは、TMEICの水素製造用整流器の大きな強み。そのアドバンテージを活かして、街中に置かれる燃料電池車向け水素ステーションから、発電所や製鉄所などの工場・プラント内で使用するものまで、将来的に様々な場所での活躍が想定されています」

世界最大級の水素製造装置
世界最大級の水素製造能力を持つ
アルカリ水電解槽のセルスタック
出典:三菱重工業プレスリリース
TMEICの水素製造用整流器は、すでに国内外の複数のプラントで活躍している。そのひとつが、三菱重工業の高砂製作所(兵庫県高砂市)構内にある「高砂水素パーク」。ここは、水素の製造から水素による発電まで、次世代水素製造技術を一貫して検証できる世界初の施設で、2023年9月の本格稼働以降、様々な技術の実証が行われている。
その中でも、単独の装置としては世界最大級の水素製造能力を有するのが、毎時1,100Nm3(ノルマルリューベ)の水素を製造できるアルカリ水電解装置だ。長さ約8メートルのこの巨大な装置に、TMEICの水素製造用整流器が高品質な直流電源を供給している。
技術部の相原は、同パークへの製品納入に際して、設計担当や開発担当の技術者とともに何度も現地に赴いた。「ノイズを抑えつつ高い効率で電力を供給できるTMEICの水素製造用整流器が、高砂水素パークでの安定的な水素製造を実現しています。このプラントで検証や試行された水素製造技術はやがて、産業界全体への水素活用の普及を後押ししていくはず。自分たちが手がけた製品が、水素社会の実現に向けて欠かせない役割を果たしていると思うと、エンジニアとしてとても誇らしく感じます」と手応えを語る。
One Teamで挑む未来
水素製造用整流器を設計・開発する上で、TMEICが重視したのが「汎用性」だ。今後、水素ビジネスが拡大していくなかで、従来のように特定のプラントだけに通用するオーダーメイドの装置やエンジニアリングでは、市場ニーズへの迅速な対応は難しくなる。個別の専門的な対策なしに、どのようなプラントにも対応する整流器の開発は、今後の水素利用の広がりを見据えれば必要不可欠だ。
さらなる高性能化や量産化を目指して、TMEIC府中事業所では、今もまさに開発が続いている。「量産化によってスピーディにお客様に製品を納入できるようになれば、より多くの水素エネルギーが生み出され、水素社会の実現に向けた動きもさらに加速することになります。今後、もっとたくさんのプラントにTMEICの水素製造用整流器を提供していきたいですね」(相原)
実は、TMEICが持つ強みのひとつに、再生可能エネルギーに対して、黎明期からずっと携わり積み上げてきた技術力があります。『太陽光や風力などの再生可能エネルギーによって発電された電力で、水素を作る』。それこそが究極のグリーンエネルギーです。営業としてこれからも、各分野で活躍するTMEICの技術者の知見を結集して、カーボンニュートラルの実現に貢献していきたいと思います」(五十嵐)
2050年までのカーボンニュートラル実現を目指す政府の「グリーン成長戦略」のひとつとして掲げられている「水素」。TMEICは、高性能で高品質なパワーエレクトロニクス製品とエンジニアリング力を通して、水素社会の実現にリーダーシップを発揮することを目指している。この確固たる目標を胸に刻むメンバーたちの、「熱い気持ち」と「やり遂げる力」が、営業・技術部門、設計・開発部門すべて一丸となり実を結んだプロジェクトとなった。